忙しい日々のためのアートジャーナリング:たった10分で始める内面探求
忙しい日常の中で、自分自身と向き合う時間を持つことの重要性
現代社会、特にビジネスの第一線で活躍される方々にとって、時間は最も貴重な資源の一つかもしれません。日々押し寄せる情報やタスク、責任の中で、自分自身の内面に静かに耳を澄ませる時間は、後回しにされがちではないでしょうか。効率性や合理性を追求するあまり、論理的な思考は磨かれても、感情や感覚といった非言語的な側面は置き去りになってしまうこともあるかもしれません。
しかし、ウェルビーイング、すなわち心身ともに健やかで満たされた状態を目指す上で、自己の内面を理解し、感情に気づき、思考の癖を知ることは欠かせません。内面の声に気づかずにいると、ストレスやプレッシャーが蓄積し、パフォーマンスの低下や心身の不調につながる可能性もあります。
そこで注目されているのが、「アートジャーナリング」です。これは、絵を描く、コラージュを作る、色を塗るといったアートの要素と、ジャーナリング(書くこと)を組み合わせた自己探求の手法です。特別な芸術的スキルは一切不要で、自分自身の感情や思考、体験を非言語的・感覚的な表現も交えながら記録していきます。
「でも、そんな時間どこにあるんだ」そう思われた方もいらっしゃるかもしれません。この記事では、そんな忙しい日々を送る方々のために、アートジャーナリングを「たった10分」という短い時間で始める具体的な方法とその意義についてご紹介します。アートジャーナリングが、あなたのウェルビーイング向上の一助となれば幸いです。
なぜ忙しい人にアートジャーナリングが有効なのか
アートジャーナリングは、必ずしも長時間かけて複雑な作品を作る必要はありません。短い時間でも実践可能であり、多忙な日常を送る方々にこそ有効な側面があります。
- 短い時間で深い内省を促せる: アートは非言語的な表現であるため、頭の中で言葉を探すよりも直感的に感情や思考を引き出すことがあります。絵や色、形は、言葉にするのが難しい感覚や曖昧な感情を素早く「見える化」する手助けとなります。
- 思考を中断し、感覚にアクセスできる: 日頃、私たちは論理的な思考をフル回転させていますが、アートジャーナリングは思考のループから抜け出し、右脳的な感覚や直感にアクセスする機会を与えてくれます。これにより、凝り固まった視点や問題解決への新たな糸口が見つかることもあります。
- 創造的な息抜きとなる: 仕事とは全く異なる種類の活動であるアートジャーナリングは、脳をリフレッシュさせ、ストレスを軽減する効果が期待できます。短い時間でも集中して手を動かすことは、効果的な気分転換になります。
「たった10分」で始めるアートジャーナリング実践ステップ
さあ、実際にアートジャーナリングを始めるための具体的なステップをご紹介します。難しいことは何もありません。
ステップ1:最低限の道具を準備する
まずは、手に入れやすいもの、気軽に使えるもので大丈夫です。
- ノートやジャーナル: 普段使っているノート、スケッチブック、あるいはルーズリーフでも構いません。少し厚手の紙だと、絵の具やインクを使っても裏写りしにくいですが、最初はコピー用紙でも問題ありません。
- 描画材: 色鉛筆、マーカー、クレヨン、ボールペン、万年筆、絵の具など、手元にあるものや使ってみたいもので構いません。複数色あると表現の幅が広がります。ハサミやのり、雑誌の切り抜きなどもあれば、コラージュに使えます。
これだけあれば十分です。高価なものを揃える必要はありません。
ステップ2:10分という時間を確保する
タイマーやスマートフォンのアラームを使って、「たった10分」という時間を設定します。完璧な時間や場所を探すのではなく、例えば以下のような隙間時間を活用することを考えてみましょう。
- 休憩時間やランチタイムの前後
- 通勤中(公共交通機関利用の場合)
- 就寝前や起床後
- 会議と会議の間の短いブレイク
大切なのは、この10分間は他のこと(メールチェックや他のタスクなど)から完全に離れ、アートジャーナリングに集中することです。
ステップ3:今日のテーマを決める(任意)
特にテーマを決めなくても自由に始めても構いませんが、短い時間で集中するために、軽くテーマを設定するのも良いでしょう。
- 「今日の気分」
- 「今、一番感じていること」
- 「今日の出来事で心に残ったこと」
- 「頭の中でぐるぐる考えていること」
- 「最近の悩み」
- 「感謝していること」
- 「こうなりたい自分」
思いついた単語やフレーズを一つ書き出すだけでも十分です。
ステップ4:10分間、手を動かす
タイマーをセットしたら、ステップ1で準備した道具を使って、ステップ3で考えたテーマ(または自由に)表現を始めます。
- 描いてみる: テーマから連想される色、形、線などを自由に描いてみます。抽象的な模様でも、簡単な記号でも、具体的な絵でも構いません。「上手く描く」ことは目的ではありません。ただ、手を動かします。
- 色を塗る: 今の気分に合う色、テーマから連想される色を選んで、ノートに塗ってみます。色の濃淡や塗り方で感情を表現してみます。
- 書いてみる: テーマについて、思いつくままに言葉を書き出してみます(フリーライティング)。その言葉の周りに絵を描き足したり、線を引いたり、言葉自体を絵のように表現したりします。
- コラージュ: 雑誌の切り抜きや不要になった印刷物などから、テーマに合う(または惹かれる)写真や言葉を選んで貼り付けます。その上から絵を描き足したり、コメントを書き込んだりします。
- ただ線を引く: 何も思いつかない時は、ノートいっぱいにひたすら線や丸を描き続けてみても構いません。単純な反復も、心を落ち着かせる効果があります。
絵が苦手な方へ: アートジャーナリングは、作品の完成度を競うものではありません。子供の頃のように、ただ無心に手を動かす感覚を思い出してみてください。直線しか引けなくても、色をぐちゃぐちゃに塗っても、それはその瞬間のあなたの内面を映し出す、貴重な記録です。判断や評価は一切必要ありません。「こんな表現も面白いな」くらいの軽い気持ちで取り組んでみてください。
ステップ5:10分経過後、軽く振り返る(任意)
タイマーが鳴ったら、そこで終了です。もし時間があれば、数分だけ描いたもの、作ったものを見返してみてください。
- どんな色を使ったか
- どんな形や線が多いか
- 最初に思っていたテーマと、出来上がったものはどう関連しているか
- 描いている最中や、描いた後にどんな気持ちになったか
ここに簡単な言葉を添え書きするのも良いでしょう。「今日の気分は灰色とオレンジ色だった」「このぐにゃぐにゃした線は、頭の中の混乱を表している気がする」といった、気づきや感想を書き留めます。これも強制ではありませんが、自己理解を深める一助となります。
忙しい日々の中で継続するためのヒント
「たった10分」とはいえ、忙しい中で継続するのは難しいと感じるかもしれません。継続のために、いくつかヒントをご紹介します。
- 無理な目標を設定しない: 最初から毎日行う必要はありません。週に一度、あるいは気が向いた時にだけ、というペースでも十分です。継続できた自分を褒めてあげましょう。
- 道具をすぐ手に取れる場所に置く: 「やろう」と思った時にすぐ始められるように、ノートやペンをデスクやベッドサイドなど、よく過ごす場所の近くに置いておくと良いでしょう。
- 記録を残すことにこだわりすぎない: 全てのセッションを完璧に記録する必要はありません。時にはただ色を塗るだけで終わりにしても良いのです。プロセスそのものを楽しむことを優先しましょう。
- 変化に気づく視点を持つ: 継続することで、気分や状況によって使う色や形が変わってくることに気づくかもしれません。その小さな変化に気づくことも、アートジャーナリングの面白さの一つです。
たった10分のアートジャーナリングがもたらすもの
たとえ10分という短い時間でも、アートジャーナリングを継続することで、以下のような効果が期待できます。
- 感情の可視化と認識: 言葉にならないモヤモヤや感情を色や形として表現することで、「自分は今、こんな気持ちなのか」と客観的に認識できるようになります。
- ストレスの軽減: 手を動かし、集中する時間は、悩みや心配事から一時的に離れることを可能にし、リフレッシュ効果をもたらします。
- 自己理解の深化: 繰り返し行うことで、自分の感情のパターンや思考の癖、内面のニーズに気づきやすくなります。
- 創造性の刺激: 日常とは異なる表現活動は、脳の異なる部分を刺激し、問題解決や新たなアイデア発想に繋がる可能性があります。
- 非言語的コミュニケーション能力の向上: 自分自身の内面との非言語的な対話に慣れることで、他者の感情や非言語的なサインにも敏感になる可能性があります(特に感情が抑制されがちな方にとって、この点は重要かもしれません)。
まとめ
忙しい日々の中で、自分自身のウェルビーイングを維持・向上させることは、持続的にパフォーマンスを発揮するためにも非常に重要です。アートジャーナリングは、特別なスキルや時間を必要とせず、「たった10分」という短い時間でも実践可能な自己探求の手法です。
絵が苦手でも、アート経験がなくても大丈夫です。大切なのは、自分自身の内面に意識を向け、非言語的な表現を通じて、その瞬間瞬間の自分を受け止めるプロセスです。
まずは、今日、あるいは明日、どこかで「たった10分」の隙間時間を見つけて、試してみてはいかがでしょうか。一歩踏み出すことで、新しい自己理解の扉が開かれるかもしれません。あなたのウェルネスジャーニーに、アートジャーナリングが寄り添えることを願っています。