論理だけでは拾えない内なる声:アートジャーナリングで自己理解を深める
論理だけでは拾えない内なる声:アートジャーナリングで自己理解を深める
日々の業務や意思決定において、私たちは論理的思考を駆使しています。複雑な情報を整理し、合理的な判断を下す能力は、現代社会で成果を出す上で不可欠なものです。しかし、合理性を追求するあまり、自身の内側にある感覚や感情、直感といった「内なる声」から距離を置いてしまうことはないでしょうか。
この「内なる声」は、論理だけでは捉えきれない大切なメッセージを含んでいます。それは、体からのサイン、抑圧された感情、あるいは潜在的な可能性への気づきかもしれません。内なる声に耳を澄ませることは、自己理解を深め、より自分らしい生き方や働き方を見つける上で重要な鍵となります。
この記事では、アートジャーナリングが、論理的な思考の枠を超えて自身の内なる声にアクセスし、自己理解を深めるための有効な手段であることをご紹介します。
「内なる声」とは何か、なぜ聞きにくいのか
「内なる声」と聞くと、漠然としたものに感じるかもしれません。これは、合理性や思考とは異なる、自身の感情、感覚、直感、あるいは無意識下にある知恵といった、非言語的な層からくるメッセージを指します。
日々の忙しさやプレッシャーの中で、私たちは往々にして外からの情報や期待に応えることに注力しがちです。また、感情を抑えたり、合理的な判断を優先したりする習慣は、内なる声がかき消される原因となります。特に、分析や計画が得意な方ほど、この非言語的なメッセージを「非合理的」「曖昧」として遠ざけてしまう傾向があるかもしれません。
しかし、この声に耳を傾けることは、自身の本当のニーズや状態を理解し、ストレスに対処し、より満足度の高い選択をするために役立ちます。
なぜアートジャーナリングが内なる声を聞くのに有効なのか
アートジャーナリングは、言葉だけでなく、色、形、線、イメージなど、非言語的な要素を使って自身の内面を探求する手法です。この非言語的な表現を用いる点が、内なる声にアクセスする上で強力な利点となります。
思考や言葉は、しばしば論理や社会的なフィルターを通してしまいますが、アートによる表現は、より直接的に感情や感覚、無意識下のイメージを表面化させることができます。ジャーナルという「安全な空間」で自由に表現することで、普段は意識しない自身の側面や、言葉にならない感情に気づくことができるのです。
アートジャーナリングで内なる声を聞く具体的な方法
アートジャーナリングを始めるために、特別な芸術的才能は必要ありません。「うまく描くこと」ではなく、「感じたままを表現すること」が最も重要です。必要なのは、ノートやスケッチブック(ジャーナル)、そして描画材(ペン、鉛筆、色鉛筆、クレヨン、絵の具など)だけです。
以下に、内なる声に耳を澄ませるための具体的なステップと、すぐに試せる簡単な方法をご紹介します。
ステップ例:内なる声に問いかける
- 静かな時間を確保する: 短時間(5分〜15分程度)でも構いません。落ち着いて自身の内側と向き合える時間と場所を確保します。
- 問いを設定する: 今、自身の内なる声に何を聞きたいかを決めます。例えば、
- 「今、私の心は何と言っているだろうか?」
- 「この状況について、私が本当に感じていることは何か?」
- 「もっとも必要なことは何だろう?」
- 「私にとって、次の一歩は?」 といった問いを心の中で、あるいはジャーナルに書き出します。
- 感じるままに表現する: 設定した問いに対する答えを「考え出す」のではなく、問いかけによって心や体に生じた感覚、感情、イメージを、色や形、線などで自由に表現します。抽象的な落書きでも、ぐちゃぐちゃな線でも、特定の色を一面に塗るだけでも構いません。頭で考えるのではなく、手の動くままに、感じるままに表現することが大切です。
- 描いたものを「観察」する: 描き終わったら、描かれたものを少し離れて眺めてみます。どんな色が多いか、どんな形があるか、どんな線が使われているか。良い悪いという評価ではなく、ただ観察します。
- 言葉で書き出す(ライティング): 描いたものを見て感じたこと、気づいたこと、頭に浮かんだ言葉などを、ジャーナルの余白に自由に書き出します。絵と結びつけても、全く関係なくても構いません。「この色は〇〇のように感じる」「この線は△△を表しているかもしれない」「描いている最中にふと◇◇を思い出した」など、思いつくままに綴ります。これが、アートによる表現を「翻訳」し、内なる声のメッセージを受け取るプロセスです。
簡単なアートジャーナリング技法例
- 色を使った表現: 特定の感情(不安、喜び、疲労など)や、特定の問いに対する感覚を、言葉にせず「色」だけで表現してみます。使いたい色を直感で選び、紙に塗るだけです。なぜその色を選んだのか、塗ってみてどう感じるかを後で言葉にしてみましょう。
- 自由なドローイング: 頭の中にある思考や感情の「もつれ」を、ペンの動きに任せて線や形で表現します。落書きのように、何も考えずに線を引いてみましょう。
- コラージュ: 雑誌や新聞から、自身の心に響く写真や言葉を切り抜き、ジャーナルに貼り付けます。切り抜きを選ぶプロセスや、並べてみることで、自身の内なる関心や願望に気づくことがあります。
実践を継続するためのヒント
アートジャーナリングを習慣にするためには、いくつかの工夫が役立ちます。
- 完璧を目指さない: 芸術作品を作るのではありません。プロセスを楽しむこと、そして自身の内面に意識を向けることが目的です。
- 短い時間から始める: 毎日10分でも構いません。無理のない範囲で、継続することを優先します。
- 決まった時間や場所を作る: 朝一番、夜寝る前、休憩時間など、アートジャーナリングを行う時間をルーティンに組み込むと継続しやすくなります。
- 道具をすぐに使える場所に置く: ジャーナルとペンなどを常に手の届く場所に置いておくことで、「今やってみよう」と思った時にすぐに取り掛かれます。
アートジャーナリングがもたらす効果
アートジャーナリングを実践することで、以下のような効果が期待できます。
- 自己理解の深化: 自身の感情パターンや思考の癖、隠れた願望などに気づきやすくなります。
- 感情の解放と整理: 言葉にしにくい複雑な感情をアートで表現することで、気持ちが整理されたり、解放されたりすることがあります。
- ストレスの軽減: 創作活動そのものが瞑想的な効果を持ち、心を落ち着かせ、リラックス効果をもたらします。
- 直感力と感覚の信頼: 論理的な思考とは異なる内なる声に触れることで、自身の直感や感覚を信頼する力が養われます。
- ウェルビーイングの向上: 自己との繋がりを深め、内面的なバランスを取ることで、全体的なウェルビーイングの向上に繋がります。
まとめ
論理的な思考は重要ですが、それだけでは自身の全てを把握することはできません。アートジャーナリングは、私たちが普段アクセスしにくい内なる声に耳を傾け、自己理解を深めるための素晴らしいツールです。絵が苦手でも、時間がなくても、まずはジャーナルを開き、手にする画材で自由に表現してみてください。
あなたの内側には、論理だけでは拾えない豊かな情報と智慧が眠っています。アートジャーナリングを通じて、その声に耳を澄ませる旅を始めてみませんか。それは、きっとあなたのウェルネスジャーニーに新たな深みをもたらすことでしょう。